AI動画生成が「思った通りに動いてくれない」と感じたら、まず疑うべきはカメラワーク指定の甘さだ。被写体やスタイルをどれだけ書き込んでも、カメラの動かし方を指定しなければモデルは無難な固定ショットか、意図しないパンやズームを選んでしまう。今回はVeo 3.1、Kling、Runway、Sora 2、MiniMax Hailuo、Seedanceという代表的な動画生成AIを横断し、ドリー・パン・クレーン・トラッキングといった実際の撮影用語をどう英語プロンプトに落とし込むかを、オリジナルの作例プロンプト付きで解説する。

なぜ「カメラワーク用語」が効くのか
各社の公式プロンプトガイドが共通して強調しているのは、抽象的な感情表現ではなく実際の撮影用語を使うことだ。Google CloudのVeo 3.1プロンプトガイドは「ドリーショット」「トラッキングショット」「クレーンショット」「スローパン」といった映画撮影の語彙をそのまま解釈できるとしており、1ショットにつき「ショットの種類」「カメラの動き」「レンズ」を1つずつ明示するのが理想とされている。Kling公式のカメラコントロールガイドも同様に、曖昧な指示は不安定な出力の最大の原因であり、「slow dolly-in」のような具体語で解決できると説明する。つまりカメラワーク用語は「おしゃれ演出のスパイス」ではなく、生成結果を安定させるための必須パラメータだ。
作例1:ドリーイン(Push in)で寄る — Veo 3.1向け
①狙い:小さな工房で木彫りを続ける老職人に、カメラがゆっくり寄っていくことで集中と親密さを伝える。Veo 3.1ガイドが推奨する「シネマトグラフィー+被写体+動作+文脈+雰囲気」の5要素フォーマットに沿って作文した。
Slow dolly-in, medium close-up. An elderly woodcarver in a small workshop, carefully chiseling a wooden bird, sawdust drifting in the light. Warm afternoon sunlight through a dusty window, shallow depth of field, 50mm lens. Quiet, meditative mood, soft film grain, muted amber tones.
③分解:冒頭に「Slow dolly-in」と1語で主となるカメラの動きを固定し、後続の描写と競合させない。「medium close-up」でショットサイズを、「50mm lens」でレンズを明示することで、ズームと混同されがちなドリーの遠近感(パララックス)が正しく再現されやすくなる。「Quiet, meditative mood」のような感情語は最後に置き、カメラ指示と分離しているのもポイントだ。
作例2:スタティックカメラ+被写体だけを動かす — Kling向け
①狙い:バリスタがラテアートを注ぐ手元だけに視線を集中させたい場合、カメラそのものは動かさず被写体の動きだけで見せる。Kling公式ガイドが挙げる「Static camera if you only want the subject to move」という考え方を採用した。
Subject: a barista's hands pouring steamed milk into an espresso, forming a rosetta latte art pattern. Environment: a small third-wave coffee shop counter, blurred customers in the background. Lighting: soft window light from the left, warm and inviting. Style: photorealistic, shallow focus on the cup. Camera: static camera, locked-off shot, no camera movement.
③分解:Klingの公式フォーマットである「Subject → Environment → Action(ここではSubjectに統合) → Lighting → Style → Camera Movement」の順を踏襲し、カメラ指示を文末に置いている。「static camera, locked-off shot」と二重に明記することで、Klingがモデル側で勝手に補完しがちな微細なパンやズームを抑え込み、注ぐ動作そのものに集中させている。
作例3:クレーンショットで規模を見せる — Runway Gen-4向け
①狙い:灯台守が岬に立つ姿から一気にカメラが上昇し、荒波の全景を見せる「スケール感の演出」。Runwayのカメラ用語ガイドが紹介する実際の撮影語彙を用いた。
Crane shot rising: starting at eye level on a lighthouse keeper standing at the edge of a rocky cliff, then ascending rapidly to reveal a stormy sea with towering waves crashing below and dark clouds rolling on the horizon. Cool blue-grey color grade, dramatic and vast atmosphere.
③分解:Runwayの推奨構文「[camera movement]: [establishing scene]. [additional details]」に忠実に従い、冒頭でカメラの動き、続けて起点(starting at)と到達点(revealing)を時系列で書いている。抽象的な「壮大にしてほしい」ではなく「ascending rapidly」「revealing」という具体的な物理動作に翻訳しているのが、同ガイドが強調する原則に沿ったポイントだ。
作例4:ストーリーボード形式でつなぐ複数カット — Sora 2向け
①狙い:短い尺の中で「準備→切る→盛り付け」という3拍子の動作を、ワンショットに詰め込みすぎずビート単位で構成する。OpenAI公式のSora 2プロンプトガイドが推奨する「ストーリーボードのように描写する」考え方を採用した。
A chef in a minimalist open kitchen. Beat 1: close-up, chef's hands arranging fresh herbs on a cutting board, soft top light. Beat 2: slow push-in as the knife slices through a tomato in one clean motion, juice glistening. Beat 3: static overhead shot, the chef plates the dish with tweezers, steam rising gently. Natural daylight, muted editorial food-photography look.
③分解:「Beat 1/2/3」と明示的に区切ることで、モデルに1カット・1動作の原則を守らせやすくしている。同ガイドは短いクリップの方が指示追従性が高いとしており、長尺を無理に1本化するより、こうしたビート分割やクリップの結合を前提にした設計の方が結果が安定しやすい。
作例5:複合カメラコマンドで見せる俯瞰 — MiniMax Hailuo向け
①狙い:夜市の屋台の連なりを、左へ流れながら徐々に上昇するカメラで一気に見渡す。MiniMaxの公式APIドキュメントが定義する角括弧のカメラコマンド構文を使用した。
[Pan left, Pedestal up] A crowded night market alley lined with glowing food stalls, steam rising from grills, paper lanterns swaying overhead, crowds of people browsing. Vibrant neon colors, cinematic night photography, slight motion blur on the crowd.
③分解:MiniMaxのHailuoモデル群は自然文だけでなく[Pan left]のような明示コマンドをサポートしており、公式ドキュメントは同時に効かせる動きは3つまでを推奨している。ここでは「Pan left」(横移動)と「Pedestal up」(垂直上昇)の2つを組み合わせ、夜市の横の広がりと屋台密度を同時に見せる俯瞰トラッキングを狙っている。
作例6:段階構成のプロダクションブリーフ — Seedance向け
①狙い:舞台上のダンサーが静から動へ移る一連の流れを、長尺クリップの中で崩れないように段階(ステージ)で管理する。Seedance系の実践ガイドが推奨する「production brief」的な書き方を参考にした。
Stage 1 (0-3s): a contemporary dancer standing still center-stage under a single spotlight, static camera, wide shot. Stage 2 (3-6s): dancer begins a slow spin, camera slowly tracks left keeping the dancer centered. Stage 3 (6-9s): dancer leaps, camera tilts up following the motion. Consistent stage lighting throughout, deep shadows, high contrast, no color shift between stages.
③分解:秒数はあくまで目安として添え、絶対時間の強制ではなく「ステージごとに何が変わり何が変わらないか」を明示するのが要点だ。特に末尾の「Consistent stage lighting throughout, no color shift between stages」は、長尺・複数カットで破綻しやすいライティングの一貫性を明示的に指定するための一文になっている。
主要ツールのカメラ用語・仕様早見表
| ツール | カメラ指定の書き方 | 対応アスペクト比 | 1クリップの尺目安 |
|---|---|---|---|
| Veo 3.1 | 自然文(dolly shot / crane shot / slow pan など) | 16:9, 9:16 | 4秒・6秒・8秒 |
| Kling | 自然文、文末にカメラ指示を配置推奨 | 16:9, 9:16, 1:1 | 5秒/10秒(モデルによる) |
| Runway Gen-4 | [camera movement]: [scene]の構文 | 16:9, 9:16など複数 | 5秒/10秒 |
| Sora 2 | ストーリーボード的な自然文、ビート分割 | 16:9, 9:16, 1:1 | 短尺推奨(4秒単位の結合も) |
| MiniMax Hailuo | 角括弧コマンド(例: [Pan left, Pedestal up])+自然文併用 | 16:9, 9:16, 1:1ほか | 約5〜6秒 |
| Seedance 2.5 | 自然文、ステージ分割によるブリーフ形式 | 複数対応(モデルにより拡張) | 数秒〜最大180秒(延長機能利用時) |
数値は各社の発表・公式ドキュメント時点のものであり、モデルの更新に伴い変わる可能性がある。実制作では必ず最新の公式ドキュメントで確認してほしい。
カメラワーク用語ミニ辞典
- Dolly(ドリー) / Push in・out:カメラ自体が前後に移動し、遠近感(パララックス)が生まれる。ズームとは異なり背景と被写体の距離感が変化する。
- Pan(パン):カメラ位置は固定したまま水平に首を振る。左右への視線誘導や情報の開示に向く。
- Tilt(ティルト):パンの垂直版。見上げる・見下ろすことでスケール感や威圧感を演出できる。
- Crane(クレーン):カメラが上下に大きく移動する。人物から俯瞰の全景へ一気に切り替える「明かし」の演出に強い。
- Tracking / Follow(トラッキング):被写体と並走してカメラも移動する。臨場感や没入感を出す際に使う。
- Static / Locked-off(スタティック):カメラを完全に固定し、被写体の動きだけで見せる。ノイズの少ない安定した画づくりに有効。
主な情報源
- Ultimate prompting guide for Veo 3.1 (Google Cloud Blog)
- Kling AI Camera Control Guide: Push, Pull, Pan & Tilt (Kling公式ブログ)
- Camera Terms, Prompts, & Examples (Runway公式ヘルプ)
- Gen-4 Video Prompting Guide (Runway公式ヘルプ)
- Sora 2 Prompting Guide (OpenAI Cookbook)
- Image-to-Video Task API Docs (MiniMax公式ドキュメント)
サンプルプロンプトは本メディアのオリジナル例です。各モデル・サービスは提供元の規約に従ってご利用ください。生成物の権利・商用条件は各規約をご確認ください。情報は公開時点のもの。収集・要約はAI、公開判断は人。